公益財団法人 スズキ財団
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英リーズ市は100%水素に、日本は再エネに課題
草鹿
FCVが伸びそうな国はありますか、大我さん。
大我
例えば、デンマーク政府は2050年の自動車保 有台数のうち50%をFCVにするという目標を立ててお り、ノルウェー政府は2025年にフランス政府は2030 年までに新車販売の全ZEV化を行うとしており、FCV と言い切る、あるいはFCVとEVの両方の導入を戦略 的に進めようとしています。特に積極的なのは英国の リーズ(Leeds)市で、2025年頃を皮切りにガス 導管を100%水素導管に切り換えていくという構想を 持って検討を進めており、将来的には英国全体に同様の取り組みを展開していきたいとしています。
草鹿
地方自治体が相当、力を入れているということ ですね。
石川
電源構成については、ノルウェーなどはほとんど 水力で、スウェーデンも水力プラス原発で、ほぼすべ てカバーできている。ヨーロッパといっても国によって 違い、ドイツは石炭が44%(2015年)であったりし ますが、日本は限られた地理的状況の中で、どう再エ ネを入れるかは、近藤先生がおっしゃったように、太 陽光や風力発電の適地は日本海側とか北海道などに多 く、これから電力需要は増えないのに、そこから需要 地に電力を送電するための系統設備のコストを誰が払う のかなど、社会構造と地政学的なところで選択肢が限 られているのは事実です。
しかし他方で再エネはまだ価格が高いというのも事 実で、これにはフィット(固定価格買取制度)が甘過 ぎるのではないかという指摘もある……。
大我
おっしゃる通り、ノルウェーは水力発電が大規 模に導入されているので、ゼロ・エミッション・ヴィー クル(ZEV)を普及させればCO2対策につながると いう背景があり、2020 年から販売する車のすべてをZ EVに切り換える、バスも同じタイミングでZEV化する ということを明確に言っています。
草鹿
人口がスウェーデンがおよそ1000万人、ノル ウェーも少ないので、シフトしやすいですよね。特にノ ルウェーは自動車産業がないので変えられるところもあ るのかなと思います。
座談会は、日本の都市、地方が抱える問題から
世界各国の政策まで、 熱のこもった議論が交わされた
大我
そうですね。ノルウェーなどは国内で石油資源 が採れるのですが、外貨を稼ぐために輸出しています。 そのため、国内のエネルギー需要は再生可能エネルギー を活用することで石油を輸出に回したいという狙いがあ ると思います。
地方が最新のモビリティ社会モデルに…
草鹿
日本は資源がないので苦しいんですよね。産総 研が研究されているビジョンはいかがでしょうか。
武田
東日本大震災の後に、太陽光、風力、水素といっ た再生可能エネルギーをいかに導入していくか、その課 題を解決するために(2014年4月に)福島県郡山市に 新たな研究拠点が設立されました。ここでは基礎から実証実験まで幅広い取り組みが進められていますが、使え るものをうまく使っていくことが必要なんだろうなと思い ます。全く別の話ですが、海の潮の流れを使ってプロペ ラを回して発電するということもできるようですが、夢物 語ですかね?
近藤
潮の流れによる発電は設備の割にパワー密度が 高くないという問題があるようです。自然エネルギーは 特にエネルギー密度の低さがコストにはね返ってきて、 逆にそこを解決するために技術を投入するという期待がも てることもありますね。
武田
日本は周りがすべて海ですから、そこから使える ものはないのかなと思ったりもしますが……。
草鹿
エンジンハイブリッドやプラグインハイブリッドで は、日本は絶対負けない気がするのですが、EVは個別 の製品の質の高さでは負けなくても、価格も含めたマー ケットということになると、当面は非常に厳しいと思いま す。そうなると次に期待できるのはFCVと全固体電池 ですが、日本と比較的近いドイツは、ディーゼル車の排 ガスを不正に操作して自らゲームチェンジせざるを得ない 状況を作り出してしまいました。日本は今の燃料事情を 考えると、従来の石化製品につながるものを売っていっ たほうが良くて、むしろ今の設備を償却していって、ど う次の産業にシフトしていくかという考え方もありますね。
大我
その点について今年調査をしているのですが、地 方のほうが最新のモビリティ社会に切り換わっていきやす いのではないかと思っています。地方はガソリンスタンド がなくなってきているので、自分の家で充電できるEV のほうが便利ですし、カーシェアリングではないかもしれ ませんが、乗り合いバスや自動運転車両のほうが便利 だったりすることもあると思います。エリア別にエネルギー も地産地消という観点も含めて考えると、新しいモビリ ティ社会が描けるのではないかと思います。
草鹿
地方だとセカンドカーがあって軽自動車だったりし ますが、それを電気自動車に置き換え、バスも自動運転 にするというのは良いですね。(それが実現できるかは) 地方自治体にお金があるかどうかですが……。地方の人 は何で電気自動車を買わないんでしょうか、価格(が高 いから)ですかね。
大我
EVのカーシェアリング会社から利用者の反応を 聞くと、「1回使ったら2度と使わない人が結構いる」と いう話があるとのことです。その理由は長距離を走りた かったのに途中で充電しなくてはならなくなったとか、アコンを使うと(電池の蓄電量が減ってしまって)恐い とかでしたが、短距離を使う人でしたらEVはフィットし ますので、うまくユーザーとマッチするように考えること が必要だと思います。
石川
日本ですと非常に良い軽自動車が安く提供されて いますから、電気自動車がなかなか普及しないというこ ともありますよね(全員笑い)。
草鹿
スズキさんに軽(自動車)に代わる電気自動車を つくっていただいて、地方から普及させるというのも1つ の大きな課題ですね。スズキさんは燃料電池バイク「バー グマン フューエルセル(BURGMAN FUELCEL L)」も開発されていますし……。自動運転も地方のほ うが事故が起きにくいでしょうから、この辺り、経産省 にもお願いしたいですね。
石川
ガソリンスタンドは、地方では需要密度が減って いくので経営環境が厳しくなっている状況ですね。そう なるとガソリンスタンドが少ない地域では、EVが有力な 選択肢といえるかと思います。また、EV単体では電池 のコストが高い中で、そこにシェアリングを掛け合わせて 稼働率を高くすることなどで、ビジネスモデルが見えてく る可能性もあるかと思います。
草鹿
逆に都会では駐車場スペースがないので、なかな か2台目は買えないですね。
近藤
EVは高いうえに、「それしか走れないのか」と いう見方もされています。
電気を使ってどうメリットが出せるか
草鹿
ヨーロッパでは電気のトラックがダイムラーさんな どから出ていますが、小さいクラスがメインですかね。
武田
ダイムラーグループの三菱ふそうトラック・バスさ んから最大積載量3.5㌧の小型電気トラックが発売されま したが、生産予定も百何十台くらいで、配送業者に限定 的に提供されているようで、まだまだ一般的というところ まではいっていないと思います。しかし少しでも実用化さ れていけば、いろんな課題が見えてきますから、広く使え るようになるための“まな板”には乗り始めたと思います。
石川
ヨーロッパは特に古い都市におけるディーゼル車 問題が根強くあり、乗り入れ規制が1つの背景としてある と思います。
武田
そうですね。ヨーロッパでは、都市部への乗り入れ規制が古くからきちんとありますから、住んでいる方々 も使い分けをわかっているという気がします。
草鹿
EVは価格が高いので、最初はインセンティブが 必要ですが、そんなにいつまでもインセンティブをつける ことはできないですよね。
石川
そうです。インセンティブも最初は良いのですが、 普及して急速に台数が伸びると中国のように補助金を出 せなくなり、次のインセンティブはどうしようかということ になる。
草鹿
中国では、EVはナンバープレートが取りやすいと いうのもあります。
石川
そう、お金のかからないインセンティブですね。
草鹿
先ほど、武田さんが言った「定点運転だけでもい いので、非常に熱効率の高いエンジン」ができれば、 シリーズ型のHVも出きてきますね。
武田
そういう定点運転のシリーズ式のハイブリッドに なってくると、排ガスの処理もしやすくなると思いますね。 今、ガソリン車でもディーゼル車でもコールドスタートの 時の触媒の効きが悪い。ですが、ハイブリッドならバッ テリーの容量が大分なくなってきたから、そろそろエンジ ンを回そうかという判断ができるわけですね。そうする と、あらかじめヒーティングしておいて、触媒が活性になっ たらエンジンを回すということもできてきて、今、排ガス の後処理にコストがかかっていますが、システムとして、 その辺のコストを削減できるのではないかと思います。
また最近、ハイブリッドではなくて、特にディーゼルエ ンジンの車の後処理装置のためにヒーティングをしないと だめだとか、米国がウルトラローノックスでNOxを今の 10分の1くらいにするんだということで、SwR(I サウスウェ スト・リサーチ・インスティテュート)などが各種システ ムを比較していて、バーナーや電気で(触媒を)温める とかしていますが、ハイブリッドになれば電気を使いや すくなりますし、(車両用電源の定格電圧を12Vボルト から)48Vに高めるという話もあって、使う電気の効率 も良くなるでしょうから、エンジンと電気をどううまく組み 合わせていくかということになると思います。
近藤
電気ありき、電気で走らせるのが目的ではなくて、 電気を使ってどういうメリットが出せるかが大事で、電動 化によって、これだけの成果が出せましたというのが技 術的には正しい発展というか、良い姿ではないか。そこ に先ほどから話が出ているような、いろんな条件が入って くるということだ思うんですよね。
国は地方で思い切ったモビリティの実証実験を
草鹿
今後の自動車産業について大我さんはどのように お考えでしょうか。
大我
やはり、(日本の企業としては)まずは全方位戦 でいく必要があると思います。エンジンの熱効率の改 善に関してもSIPのプロジェクトがありますし、燃費も IEAによれば毎年1.6%向上していくということのよう ですので、ガソリンエンジン車もかなり1km走行あたり のCO2排出量が低減していくと思います。また、EVも FCVもインフラが整備されていけば、2030〜 50年に は普及してくる可能性があると思いますが、20〜 30年 の間に30〜 50年を見据えて日本にあったパワートレイ ンを見極めていくことが必要です。
地方や過疎地域にとっては、自動運転とかシェアリン グなどをどう利用していくかが喫緊の課題ですので、可 能であれば政府が、どこか特定のエリアで思い切って新 しいモビリティの実証実験をし、どういう利用の仕方が 本当に効くのかモニタリングをして検証していくことが、 CO2を削減するとともに、新しい産業を盛り上げるため にも重要だという気がします。
草鹿
全国区よりローカルで特区的に集中したほうが良 いということですね。
大我
可能なら都市でもできれば良いですね。住んでい る人の特徴とか車の使い方別に検証することが重要だと 思います。
武田
将来のパワートレインを考えてみると、可能性の あるものがいくつもあって、日本の企業がそれを全部パ ラレル(並行的)に開発するとなると、相当な費用もかかる。その費用を考えると、今、おっしゃったように、 特定の地域でトライアルをしてみて、実際に何が良いんだ ろうというものを早い段階で選り分け、ある程度、答え が出たところで、そこに集中していければ、全体でみた 開発コストは大分、減らせるかもしれませんね。
国としても、そういうことを考えていただきたいと思い ますね。英国とかフランスなどは2040年までにガソリン 車の販売を禁止するという方針を出していますが、日本 としてもうまく対応していかないと……。
大我
まさに日本としてどんなビジョンを描いていくかで すが、フランスとかノルウェーなどは、その国の情勢に 応じて、国民のコンセンサスを得ながら内然機関車の販 売禁止等の将来の戦略的な目標を決めていると思いま す。翻(ひるがえ)って日本はどうかと考えますと、過 疎化などの日本ならではのいくつかの問題があって、例 えばそこにEVや自動運転などを入れていくことによっ て、そうした地域の問題を解決するモビリティ社会のあ り方を実証で見せていくようなドラスティックな取り組み を進めてコンセンサスをつくりながら、将来の目標を設定 していただくと説得力もあると思います。
日本のすばらしい技術で「街全体」の輸出を
草鹿
石川さん、これは大きな宿題ですね(全員笑い)。
石川
全くおっしゃる通りですね。今、国も地方で、自 動運転によるEVのシェアリングなどをしていますが、ど ういうメッセージを出すかも大事です。英国の内燃機関 車廃止は「そもそも英国の自動車産業って何だったっけ」 というところを飛び越えてしまうようなメッセージです。 日本の自動車メーカーはすばらしい技術で、すばらしい 取り組みをされていますから、国としてはどこを目指すか のゴールを示すことが重要だと思っています。
武田
ヨーロッパも米国も実際の公道で開発中の車を走 らせて検証することが割と簡単にできるようです。もち ろん州とか市とかと相談し、開発の目的を説明してのこ とですが、日本の場合は国土交通省さんになると思うの ですが、ハードルが高い。なので日本のメーカーは自社 でテストコースやテスト用の設備をつくらなくてはならな い。そういうところや先ほどの実証実験も含めて、もう 少しやりやすくなると良いと思います。
草鹿
今日は良い結論になりました。エンジンですと、ようやく9社と自動車関連企業が70社を超えて集まり、 「AICE」でいっしょに研究する態勢ができています。 それが共通認識や規格化につながっていくんですね。電 気自動車は近藤先生が主体になってもらってコンソーシ アムをつくっていただき、石川さんには特区をどんどんつ くっていただく。そこでいっしょに実証実験をすることに よって、大我さんが言われたような共通の認識とか規格 づくりにつながるようにしたり、武田さんがおっしゃるよ うに企業の開発コスト削減にも役立つようにし、日本の 産業が将来、鉄道も含めて「街全体を輸出する」ように 発展することを願い、今日のお話を閉じたいと思います。 皆さん、どうもありがとうございました。
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