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自動車用はすば歯車のかみ合い摩擦損失シミュレーション
室蘭工業大学 機械航空創造系学科(もの創造系領域) 助教 成田幸仁
1.はじめに
近年、温室効果ガス削減が世界規模で重要な課題となっている。自動車の省エネルギー化を妨げる要因に変速機等の駆動系の損失があり、資源エネルギー庁が策定した「省エネルギー技術戦略2008」において、その改善の重要性が明記されている。駆動系の損失の原因の一つに歯車が噛み合う際に歯面間に発生する摩擦抵抗があり、その低減には歯車諸元の適切な設計が必要である。
歯面摩擦の原因には、材料表面の突起干渉によるものと、高面圧下で粘性が増加した潤滑油膜のせん断応力によるものがある。これらは、トルク伝達に伴う歯の弾性変形によって歯対の接触状態が変わるため、運転状態により変化する。そのため、歯車諸元の適切設計を行うためには、歯の弾性変形、潤滑油膜のせん断抵抗及び、材料表面の突起干渉を広い条件下で高精度に計算できる、歯面摩擦力のシミュレーション技術が必要である。そこで、本研究は、自動車に広く用いられるはすば歯車を対象として摩擦損失シミュレーション法を開発することを目的とする。これまでに、歯の弾性変形と潤滑油膜のせん断抵抗を考慮したはすば歯車のかみ合い摩擦損失シミュレーションを行ったので、この結果を報告する。
2.粘弾塑性モデルによる油膜せん断力計算
高面圧下での油膜のせん断応力を動力伝達に用いるトラクションドライブでは、油膜せん断応力を計算で求める研究が発達している。それらの中に、油膜の粘性や限界せん断応力などを実験により求め、粘弾塑性体として定式化してせん断応力を計算する方法(1)がある。このモデルを図1に示す。ローラの弾性接触部に流入した潤滑油は、入口から出口に移動するに従いひずみを増す。ひずみが小さい領域では、油膜のせん断応力はひずみに従い粘弾性体のように増加する。さらにひずみが増えると限界せん断応力に達し、そこからはせん断発熱により油膜の粘性が低下してせん断応力も低下する。このせん断応力をローラの弾性接触面内で積分すると、油膜のせん断力(トラクション力)が得られる。これには種々の潤滑油の性状を反映できるという利点があるため、本研究ではこの方法を採用した。

図1 粘弾塑性モデル
粘弾塑性モデルにより計算したトラクション係数と四円筒試験機による実測値を図2に示す。ここでは、一般化のためにトラクション力を押付力で除してトラクション係数(摩擦係数に相当)にしたものを示している。性状が大きく違う油種での計算の有効性を確認するために、ATFとトラクション油の両方について比較した。曲線は計算結果、マーカーは実験結果を示している。図より、ATFではすべり率が小さい領域で差異が見られるが、それ以外では計算値と実験値は概ね一致していることが分かる。

図2 トラクション係数の計算値と実験値の比較
3.FEMによるはすば歯車の面圧計算
油膜せん断力は面圧に応じて変化するため、はすば歯車の運転時の面圧を高精度に求めることが必要である。しかし、面圧は歯のたわみやクラウニング変形等で変化する。そこで、FEM(2)を用いて面圧を求めた。図3に計算結果を示す。本計算で用いたはすば歯車のかみ合い率を歯のたわみ等を無視して求めると3.26となり、3〜4枚かみ合いで運転する。しかし、FEMでは歯のたわみにより歯すじ端が接触しなくなり、2〜3枚かみ合いとなった。それにより、面圧が歯のたわみ等を無視した場合に比べて1.7倍となった。

図3 FEMによる面圧の計算結果
4.はすば歯車の摩擦損失シミュレーション
FEMによる面圧計算と粘弾塑性モデルによる油膜せん断力計算とを組み合わせて、はすば歯車のかみ合う歯面に生じる摩擦力を計算した。この摩擦力をトルクに換算して損失とし、一般化のために動力伝達効率として表した。図4にその結果を示す。なお、油膜せん断力計算の時と同様に、ATFとトラクション油の両方について計算値と実験値を比較した。計算結果は白抜きマーカーと実線、実験結果は塗潰しマーカーと破線である。計算値を実験値と比較すると、周速が上がると効率が向上する傾向が一致していることが分かる。ただし、計算値は実験値よりも低い。ATFの場合は概ね一致したが、トラクション油では差が大きい。この原因には歯車の振動が考えられる。はめ合い部品の一方に振動を与えながら挿入を行うと、抵抗力が低減するという報告がある(3)。実験では歯車の振動によりトラクション係数が減少し、効率が向上している可能性が考えられる。

図4 動力伝達効率の比較
5.まとめ
粘弾塑性モデルによる油膜せん断力計算とFEMによる面圧計算により、はすば歯車のかみ合い摩擦損失を求め、動力伝達効率を計算した。トラクション油とATFのトラクションカーブを計算し、4円筒試験機による実験値と比較しところ、ATFの初期勾配に差は見られたが、それ以外は概ね一致した。はすば歯車の動力伝達効率を計算し、同一条件下の実験値と比較したところ、実験条件の変化に対しての傾向は一致したが、定量的には計算結果の方が低い値となった。今後は面粗さや振動等の影響をシミュレーションに組み込み、計算の高精度化を図る。
参考文献
[1] C. R. Evans, K. L. Johnson,Proc. Instn. Mech. Engrs., Vol.200 No.C5, (1986), 313-323
[2] T. Tobe, K. Inoue, Trans. ASME, J. Mech., Trans., Auto., Design, Vol.107, (1985), 17-23
[3] 齋藤・他,精密工学会誌,No.54‐03,(1988),606‐611
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