写真1 会場入口
写真2 Keynoteレクチャーが行われた大ホール
(写真1、2はhttp://www.cobee2018.net /about.htmlより)
このたびは、貴財団の海外研修助成により標 記国際会議に参加することができ、帰路にトラブ ル(予約便欠航と追加宿泊)があったものの無事 帰国できました。まずは感謝の意を表します。以 下、研修報告として、本会議の概要、発表論文 の傾向、当方の口頭発表内容とそれに対する反 応について記します。 まず、”COBEE” (http://www.cobee2018.net/ index. html)と称する国際会議は、天津大学と 大連工科大学が 2008年に開始したもので、建築 物の省エネルギー化と室内空気・温熱環境改善 を同時に実現するためにどうすればよいか、大学 の研究者のみならず建築設備機器メーカー、電 気・電子制御やセンサー関連企業、ビル管理に 関わるエンジニアやファシリティ・マネージャーな どが会して議論する場です。本会議で4回目とま だ歴史は浅いですが、多種多様な分野の研究者 が集うクロスオーバーな国際会議として貴重な存 在です。と言うのも、当方が専門とする建築環 境工学、特に室内空気環境と建築設備に関連す る国際会議は多数あり、室内空気質(Indoor Air Quality: IAQ)や温熱快適性 (Thermal Comfort)の研究者が集まる国際会議としては ISIAQ (The International Society of Indoor Air Quality and Climate)主催の “Indoor Air”および ”Healthy Buildings”が それぞれ交互に毎年開催されていますし、換気と 省エネルギーに特化した国際会議としては SCANVAC (Scandinavian Federation of Heating, Ventilation and Sanitary Engineering Associations in Denmark, Finland, Iceland, Norway and Sweden)主催 の ”ROOMVENT”や ”VENTILATION”、
空調設備についてはASHRAE( the American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)が主催する年 2回の大 会 や R E H VA( Federation of European Heating, Ventilation and Air Conditioning Associations) 主催の “CLIMA”といったように、細分化されたテーマ の国際会議は定期的に開催されている状況です。 才能が豊かで資金も豊富な研究者であれば、年 に3〜4件の国際会議へ出かけて発表できそうで すが、あいにく当方の場合は年1件がやっとです。 さて、今回の COBEE期間中のスケジュールは 表(P25)に示すとおりで、毎朝および昼食後は 大ホールにて特別講演が行われ、ヒートポンプ技 術の最新事情に始まり、気流解析技術の進捗状 況、各国における省エネ事情について語られまし た。特に最終日の朝は、唯一日本人として、早稲 田大学の田辺新一教授が登壇、東日本大震災後 の日本におけるエネルギー事情、省エネ政策やそ の国際的な位置づけについて、ユーモアを交えな がら分かりやすく伝えてくれました。 次に、発表論文の傾向としては、気流解析な どのシミュレーション技術を駆使した室内環境の 予測だけではなく、省エネルギーの実現性や建 物周辺の都市環境に与える影響にも及んでいまし た。プログラムのほとんどを占める口頭発表につ いては、テーマごとに5部屋に分かれ同時並行で 行われていたため、すべてのテーマについて聴講 することはできないので、当方の主な研究テーマ である室内空気質や温熱環境の発表を聴講する ことにしました。最も驚いたのは、日本からの参 加者が 10名弱程度であったのに対し、発表者の 6割が中国人、2割近くが韓国人であったことです。本会議の起案が中国であったとはいえ、オー ストラリアおよび北米、ヨーロッパに至るまで、 世界中の大学や研究機関に中国人が進出してお り、修士学生レベルでもスクリプトなしに英語で 堂々と発表をしている様子は衝撃的でした。発表 論文の内容としては、省エネルギー技術の進展度 合いにして、90年代に日本で盛んに行われてい た研究レベルに相当するように感じましたが、さ すがに日本の 10倍人口を抱える国、人数と勢い があり、また、空気浄化対策や 省エネルギー対策を政策的に実 現することが容易に(しかも強制 的に)可能な共産圏であること も考慮すると、既に日本は中国 に抜かれていることを実感せざる を得ませんでした。