研究室訪問

九州大学 大学院工学研究院
准教授 森 英男

Q.1 先生のご研究及び研究室のご紹介をお願い致します
 光学的可視化計測の開発・応用、特に PSP(Pressure Sensitive Paint)を利用した流れ場中の圧力計測がメイ ンです。研究室全体では、カーエアコンにも使われるファ ンなど気体を作動媒体としたターボ機械流れ場の解析が メインになっております。

博士後期課程学生の文君(左)と。
助成テーマの重要な要素である、
PSPとTSPの重ね塗りによる圧力・温度の同時計測
に関する研究で 主要な役割を果たした。

Q.2 先生は平成 26 年度のスズキ財団の助成を受けら れました。「イメージング計測手法による非定常圧 力計測を通じた生活環境機械の性能向上化」でし たが、その研究の進展状況は如何でしょうか。ま た本研究成果の実用化に向けてどのような計画を お持ちでしょうか。
 非定常圧力計測というのは、定常流よりハードルが高 く、また生活環境機械なので流速が低く圧力差の分布 が小さいので計測精度が問題になってきます。感圧塗料 は、圧力と温度で発光強度が変わるので、温度の同時 計測が必要になります。そこで、感温塗料である TSP (Temperature Sensitive Paint)を併用して、PSP と TSP の重ね塗りで温度、圧力を同時に入手し、発光寿 命を考慮して2データを分けることができました。上記の 内容について国際会議でも発表させていただいきジャー ナルにも掲載される予定です。
Q.3 今後の本研究の発展性や抱負をお聞かせください。
 同じ光を使った可視化では PIV は使える技術ですが、 PSP はまだ実用ではないので普通に使える技術にしたい と思います。酸素もしくは空気の圧力を測っていますが、 液体の場合は、溶存酸素のセンサーとして使うことも考 えられます。また、非定常で圧力を計測できれば、騒音源も解析できる可能性がありますが、今以上に精度が 必要になると思います。
Q.4 九州大学における就職活動の状況について お聞かせください
 全般的に大部分が修士に進学、修士を卒業して就職 します。大学としてはドクターを勧めたいが、決して多く はありません。卒業後の就職を心配する学生が多いので すが、最近はドクターを取っていただける企業も増えてき ました。共同研究先に就職する学生もいますが、学生自 身で就職先を決める場合も、修士と同様に専攻から推 薦を受ける場合もあります。海外の留学生は祖国に帰っ て就職する人も日本で就職する人もいます。
Q.5 今回の助成以外のご研究で今一番注力されている 研究があればトピックスとして差支えない範囲で 教えていただけませんか?
 助成いただいたのは、低流速で圧力の低い場所の計測でしたが、助成テーマ以外では軸流圧縮機の内部流 れを見たりしています。光学窓の内側に PSP を塗って、 透過壁を介して励起と発光画像撮影を行っています。

左:感圧塗料の較正試験の様子。較正試験により、感圧塗料の発光強度または寿命と圧力の関係を求める。
右:供試軸流圧縮機の側壁面上の圧力分布計測を行う実験装置図

Q.6 様々な業界との技術交流の状況について、差し支 えない範囲でお聞かせください
 民間企業との交流に限定せず、産学官の枠組みを含め た意味での連携として、感圧塗料の研究会の中では多分 野の研究者・技術者間での技術交流が進んでいます。 流体工学分野だけではなく、センサーの特性を考えると 化学分野関係者との交流が進んでおり、民間企業からの 研究者とのお付き合いもあります。
Q.7 スズキ財団の助成について一言お願い致します
 大学の研究者ですと科研費の研究費が重要なのです が、科研費が基礎研究に重きを置くのに対して、民間の 財団の事業は比較的実用に近いところで助成をいただけ る制度だと思います。
Q.8 最後に理工科系を含む学生へのメッセージをお願 い致します
 理工科系の学生について言えば、技術を大事にしてほ しい。日本はこれまで、技術で身を立てて発展してきたが、求められる技術が変革してきたので、外国との競争 が厳しくなってきました。技術に携わる人、技術の大切 さをしっかり認識してくれる人が増えてほしいと思いま す。技術がいくら変革しても、基礎技術の重要さが変わ ることはないので、その意味では、機械工学に関して言 えば四力等基本的な学問については、大学にいる間に しっかり勉強していただきたいと思います。

平成17年(2005 年)に開校した伊都キャンパス。箱崎の旧キャンパ スから順次移転が行われ
平成30 年(2018 年)内には移転が完了す る予定